ご老幸の言葉杖

長年の間に書き溜めた言葉達『人生の応援歌』。老いゆく自分に、そっと付き添ってくれた希望や夢や勇気の友です。

たまにはこんな物語でも

こんにちは。
いかがお過ごしでしょうか。
北の方から紅葉の便りが届く季節になりました。
気持ちが浮き立ちますね。

そんなときに、
島根県飯南町ダム湖で9月に釣れた全長1メートル
を超える巨大ウナギが見つかったそうです。
なんでも島根県飯南町にある来島ダムのダム湖で、
町内に住む男性によって釣り上げられました。
テレビで観ましたが、
「でかい!」

昔、私の田舎でのうなぎの釣り方は川でした。
うなぎのいそうな場所に、どじょうを仕掛けた
針を数か所に置き、翌日早朝に引き上げます。
これが結構面白くて、中学生当時の楽しみの
一つでした。今では、河川工事でうなぎも
いないようです。昭和30年代ですが。

 

ということで、
今回はうなぎとどじょうの友情の物語をご紹介します。
よろしかったら、川面をちょこっと覗いてみませんか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どじょっこの詩」
 
「あ!・・・・・・危ない」
「まちゃ~がれ、いただきだ!」
逃げるどじょっこを鋭い爪を唸らせ追いかける
大ザリガニがいました。
水面は静かな小川の中では、食うものと食われるものが、
逃げる、追いかける。
小さな尾びれを必死に揺らし、
体をくねらせ逃げていくどじょっこは、
目の前に小さな穴を見つけました。
どじょっこはこれ幸いと、
その穴の中にする~~と逃げこんだのです。
まて~~と、穴まで来たのですが、
つめが邪魔になって入れない大ザリガニは、
あきらめて去っていきました。
「やれやれ、あぶなかったなあ。
でも、これはいい隠れ家になりそうだぞ」
どじょっこは、先ほどの逃げの疲れから、
いつの間にかうとうとと寝入ってしまいました。
 
そこに、穴の主が帰宅して驚いたのなんの!
それはそうです。
自分の寝床に見知らぬものが「デン」と
寝転がってたのですから。
「おいおい、なんだお前は!!」
ドスのきいた声でいきなり起こされたどじょっこは、
目の前にいた大きなうなぎ
に、ビックリ、声も出ず沈黙・・・・・・。
小さな体を丸め、
「すんまへん。大ザルガニに追われて、
目下の幸いとここに逃げこみました。ハイ、
うなぎさんの寝床とは知らずにほんとに、すんまへん」
頭を上段に構えて怒らせていたうなぎは、
気を静めるように声を抑えると、
「まあいいがな。大ザルガ二に追われたんではな。さてと」
さてと!この声を聞いたどじょっこは、
その言葉の先を察し、
観念したかのように静かに目を閉じるのでした。
それを見たうなぎは、
ごろんと長い体を横たえると言ったのです。
 「いやな、今日は外で十分に食べてきたから、
もう食わん。俺は寝るから逃げ
んなよ。この尻尾で直ぐわかるからな」
言うなりうなぎは、大きないびきを立
てて寝てしまいました。
穴の入り口にはうなぎの尻尾があり、
恐怖で逃げる事もできず、心配で寝る事も
出来ないどじょっこは、振るえながら夜を明かすのでした。
 
翌日、目を覚ましたうなぎは、
目の前のどじょっこを見ると
「今から食うにも、何だかそのようにかしこまって
覚悟を決められていると、食う気にもならんで。
まあいいか。俺は少し散歩してくるわ」
暫くすると、うなぎが口になにやらくわえて
散歩から帰ってきました。
「あれ~~?いたのか。何で逃げなかったんだよお」
長い体をぬらりくらりとくねらせて落ち着いた
うなぎの背中には、痛々しいほどの無数の爪の傷痕が?。
「 お前さんも腹がすいただろうて。いっしょにこれを食おうや」
そういわれても、
直ぐに食べれるほどのどじょっこではありません。
何しろ腹が減るほどの環境ではなかったからです。
それを知ってか、うなぎはどじょっこの
前にご馳走を置くと言いました。
「まあ、無理せんでもいいがな。そのうちに腹も減るがな。
でだ、不思議なもんで、
こうして一つ穴の中で一夜をともにすると、
何だか他人のような気がしねえわ。な、兄弟や」
兄弟と急に言われたどじょっこは、反射的にこたえたのです。
「ええ、僕もです。兄貴」
こうして、どじょっことうなぎのおかしな共同生活が
始まったのでした。
それから数日した、ある日の事です。
いつまでも帰ってこないうなぎに心配にな
ったどじょっこは、
そろり~と穴の入り口まで出てきたのです。
そこに偶然にも、
その後の穴の様子を伺いに来た大ザルガニに、
穴から出した首を・・・・・・。
ほんの一瞬の出来事でした!。
捕り逃がした獲物を、
やっとの執念でこの日に得た大ザルガ二は、
意気揚揚と帰っていったのでした。
しかし、その大ザルガニのハサミは一本しかなかったのです?。
やがて獲物を口にくわえヒラヒラさせながら、
うなぎの兄貴が帰ってきました。
実は、いつも穴を留守番していてきれいにしてくれて
いる可愛い弟の為に、
イトミミズのご馳走を捜しにいっていたのです。
帰ってきたたうなぎは、穴の入り口を見て愕然としました。
「しまった!言っておくんだった。
大ザリガニがウロウロしてる事を。何て事だ」
 うなぎは、せっかく持ってきたご馳走を
穴の入り口に捨てると穴に入っていきました。
 「兄弟のいないこの寝床も、意味がなくなってしまったな。
寂しいことだ。いいやつだったな」
うなぎは何を思ったか、
ごろんと寝ころぶと口ずさみはじめたのです。
「どじょうが出てきてこんにちわ。うなちゃん一緒にあそびましょ。
あいつめ、よく口ずさんでいたな。可愛い奴だったな。なあ兄弟よ」
 
穴の付近を通る川の仲間たちは、
それからいつもこのの詩を聞くようになったのでした。
その穴を、川の仲間たちは、
どじょっこ穴と言うようになりました。
けれども、川の流れが冷たくなった頃、仲間たちもいなくなっ
たその川の穴からは、あの詩も聞こえなくなっていました。
その理由を知ろうというものもいないし、知るものもいませんでした。