ご老幸の言葉杖

長年の間に書き溜めた言葉達『人生の応援歌』。老いゆく自分に、そっと付き添ってくれた希望や夢や勇気の友です。

「夢への扉」・・・ファンタジー風

第一回の作品は、ファンタジーです。
主人公の忘れていた未来の夢を叶えるために、
あるものがやってきます。
伏線もいちおう書いてあり、落としもまあまあ
いいかなと思います。
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
次回は、生活童話風の作品です。
次次回は、セラピー風の作品です。

 

=登場人物=

美咲:知人の親方に請われて、美咲の自宅の

          建設現場でガードウーマンの仕事をやっ

   ている。


母:美咲の将来を心配しているが、

  現在は1日も早く普通の
  仕事についてほしいと願う。
  地方に単身赴任している父に代わって、

  家庭を守っている。

親方:美咲の町内に住んでいて、

   美咲の小さい頃からの知り合い。
   建設現場の親方でもある。


「夢への扉」


「行ってきま~す。おっと、ヘルメット忘れるとこ

  だったわ」
「きつい仕事だから気おつけるのよ。他に仕事ない

   のかしらね」
「うん、むつかしいんだ・・・」
(あれ、桜の木の下、何か動いたみたい?)
「いってきま~す」
母からお弁当を受け取ると、(なんだろう・・・何だ!)
根元を確認した美咲は、元気よく出かけていきました。

 

美咲が成長して早20年、今年も庭の陽光桜が満開の季節に。
この桜は母が記念に美咲の成長を願って植樹したものでした。
その陽光桜の根元には、幼い頃に美咲が埋めたタイムカプセ

ルがありました。そのタイムカプセルには、20年後の夢が

託されていたのです。
しかし、現実の社会の厳しさの中に、その夢もいつしか美咲

の中から消えていました。
その陽光桜の根っこが盛り上がり、土をはねて、小さな穴が

開いています。
桜の満開の日、その穴から、もそもそっと首を出したものが?。
その日はどんより曇って、春霞が空をグレー色に染めていました。


「はい、お~らい。右に入ってください」
「美咲さん、いつものあの威勢のいい『もたもたしてないで
 お兄さん!』はどうしたんだ」
「うん・・・」
今朝、現場に向かう途中に見た、

新入社員たちを見たのが響いていた美咲でした。
美咲は、アルバイトの建設現場のガードウーマンをやって

いたのです。


太陽が霞の中に真上に見え、お昼の時間を教えています。
そこは建設現場近くの小さな公園、ベンチに腰掛けて
休憩している美咲がいます。
「帰るわよ」
「ママ~チョコレートのシールが」
「ほってきなさい。おいで」
ブランコに乗っていた母娘が公園を後にしました。
暖かな春の日差しが、美咲の目元を緩めました・・・。

「なんだろう・・・」
美咲が見つめていた一点の黒い動くものが、黒い土を
はねながら、近づいてきます。
すると、ぴょんと美咲の膝に乗ったのは、
小さなモグラでした。
「きゃ~~~なにこれ」
手で払いのけようとした時、ぴょんとモグラ
女性の肩に。
「こんにちは。僕はあなたの庭の桜守のモグラですよ。
 ああ、これですか、日よけのモグラ用のメガネです。
 これで見えるんです」
(なんでモグラが・・・?そうか、今朝)
「僕の話を聞いてくださいね。貴方が庭に埋めた未来
への手紙が、今年でちょうど20年になるんですよ。
もう夢もすっかりお忘れですね。そこで、いまから、
その夢を叶えに来たのです。僕の先祖代々の伝令なんです」
「そういえば確かに、でも、もうすっかり忘れていたわ。
 どおせ、夢でしかなかったのよ」
「ですので、その夢が今から叶うのですよ。はい、これが
 貴方の夢のお手紙です」
モグラは小さな泥だらけの手紙を渡しました。
「懐かしいわ。え、私がピアニストに・・・そうだったんだ」
「そうですよ。さて、その手紙の封印シールをおでこに貼って
くださいね」
「こうですか。ペタ」
「ほら、前を見てください。小さな扉が見えますね。
さあ、開けてみてください」
美咲は信じられないという表情でベンチから腰をあげると、
扉の取手に手をやりゆっくり引きました。
「さあ、勇気をだして、入りましょう」

ドアの中に一歩入ると同時に、コンサートホールのスポット
ライトが美咲を照らしました。
「それではみなさん、本日のピアニスト、大空美咲さんを
 ご紹介します。大空美咲さんどうぞ」
大きな拍手がホールに響きます。
「みなさん、こんにちは。大空美咲です。

 よろしくお願いいたします」
「それでは今日の演目はチャイコフスキー

 くるみ割り人形、花のワルツです。

 大空美咲さん、お願いします」

館内にくるみ割り人形のメロディーが流れていきました。

やがて、エンディングが近づいて。
ポロロン♪♫・・・美咲が立ち上がると、一斉に大きな拍手が
湧き上がります。深々と礼をする美咲の前に、花束が届きます。
「大空美咲さんの演奏、お楽しみいただけましたでしょうか。
今後のご活躍をお祈りして、みなさん、

盛大な拍手をお願いします」
館内に割れんばかりの温かな拍手が鳴り響いた。
壇上に深々と礼をする美咲の姿がありました。

「美咲さん~!!仕事に入ってな」
遠くから監督の声がしてきました。
「あれ、私って・・・?。モグラくんは??」
そこにモグラはいなかったが、手には確かに手紙が、

ふとおでこに手をやると、シールが張り付いていた。
(変なの・・・。でも、これ、

 庭の桜のプレゼントかもしれない)

「監督さん、私やっぱりピアニスト目指そうと思うの。
 考えたんだけど、諦められなくて・・・」
「美咲ちゃん、前に言ったことあったよね。そうか、

 頑張りな。
 僕も応援するからさ。あれ!おでこのドラえもんののシール
どうしたの?」
「これね、未来の扉を開けるおまじないなの。

 どこでもドア~なの」
美咲は誘導ライトをさっとあげると、
「お~らい、だめだめ、順番だから。そっちの車先に」
夢に向かう明るい美咲の声が、春の風に舞っていきました。

  おわり

あとがき

いきなりモグラが?
普通はこのように思いますが、ファンタージー
だいたいこんなものです<いきなりは当たり前です>
問題は、モグラの扱いがきちんと語られているか、
ということです。それが書かれていればいいのです。
例えば、モグラのメガネです。
モグラは目がほとんど見えません。
そこで、メガネを掛けるということで、その部分を
解決しています。また、モグラは三年ぐらいしか生
きられませんから、美咲の手紙の護りをモグラの代々で
解決しています。

おでこのシール、これは、グリコのシールで、今もある

ドラえもんのシールで、どこでも?とかけてあります。
こんなシンプルな童話でも、それなりに工夫が必要な
わけですね。
この物語の焦点は美咲がどのようにして再びの夢に
向かうのか?
朝の新入社員たちに出会ったことはネガティブな感情を
引き出していますが、逆にこれがあったがゆえにモグラ
くれた夢のプレゼントでまた夢に向かう力を出したのです。
このように、ひとつひとつ文章に整合性をもたせながら
創作をしているわけです。

さて、このファンタジー風の童話はいかがでしたでしょうか。
次回は、生活風の童話です。さて、
どんな物語になっていますでしょうか。