ご老幸の言葉杖

長年の間に書き溜めた言葉達『人生の応援歌』。老いゆく自分に、そっと付き添ってくれた希望や夢や勇気の友です。

命のメッセージ:セラピー風

今回は作風がガラッと変わり、物悲しい作品です。
ラストが悲しい物語でも、時としてよむ人を感動
させることもあります。
それは、童話だけでなく、映画でも小説でも同じ
と思います。しかしながら、現在の童話は大方は
先の作品のような生活童話が主流ですね。
それは子供が読みてだからでしょう。
今回の作品は、書き手が楽しむための物語です。
悲しみの同調、ここからわいてくる思いやりな
どの感情が書き手の心を震わせる、
これがセラピーな作風です。
今回で言えば、何でコタロウの気持ちがわかって
あげれなかったのか、この悔しさ、
コタロウが命を掛けて美咲に伝えたかったその
こと、寿命で去りゆく前に、どうしても美咲に
伝えたかったコタロウの気持ちを思いやる時、
コタロウの命に寄り添えるでしょう。
こんな作風もあることを知っていただければ、
嬉しいです。
ということで、今回は、タイトルも変更して
あります。

 

美咲:知人の親方に請われて、
   美咲の自宅の建設現場で
   ガードウーマンの仕事をやっている。

コタロウ:美咲の家の飼い犬。小さい頃から
     家族と生活を
     共にしてきた15歳の柴犬。

母:美咲の将来を心配しているが、
  現在は1日も早く普通の
  仕事についてほしいと願う。
  地方に単身赴任している父に代わって、
  家庭を守っている。

親方:美咲の町内に住んでいて、
   美咲の小さい頃からの知り合い。
   建設現場の親方でもある。


「命のメッセージ」

「コタロウ、何やってんの!」
その声に、母が玄関に、

「美咲どうしたの・・・」
「うん、桜の下で盛んにあばれてるみたい」
その言葉に母が、
「そういえば、今朝、ピアノのカバーを引っ
 張ってたわ」
美咲はなんで?という顔をした。

「母さん、コタロウもう15歳よ」
「そうね、美咲が小学校に入学の時だから」
「そか、じゃあ、おじいちゃんか」
柴犬のコタロウは美咲の小学一年からの
家族でした。

今年も庭の陽光桜が満開の季節となった。
この桜は、美咲が生まれたときに母親が、
美咲の成長を願って植樹したものでした。
「行ってくるね。おっと、ヘルメット」
「きつい仕事だから気おつけるのよ。
 いい仕事ないかしらね」
「うん、むつかしいんだ。でも、近いからね」
母は温かな眼差しを美咲に、
「はい、お弁当よ」
美咲は母からお弁当を受け取ると、
チラッと陽光桜に目をやり、
出かけていきました。


「次の車どうぞ。二番目に入れて~」
「美咲さん、いつものあの威勢のいい、
『もたもたしてないで』
 お兄さん!が、ないねえ」
近くの職人からの声に、
「うん・・・」
今朝、現場に向かう途中に見た、新人社員たち
を見たのが響いていた、美咲でした。
美咲は、アルバイトで建設現場のガードウーマン
をやっていました。

太陽が春霞の中に真上に見え、お昼の時間を
教えています。
建設現場近くの小さな公園、
美咲がベンチに腰掛けて休憩して
います。お弁当箱をしまっている時、
ブランコの先から犬が駆けてきます。
「あれ、こたろう?・・・コタロウ~」
立ち上がろうとした美咲の足に、コタロウが
まとわりつき、嬉しそうに美咲に顔を向けました。
コタロウが何かをくえています。
「コタロウどうしたの、それ?」
美咲はコタロウの口から紙包を取ると、
「くぅ~ん」と一声。何か伝えているようです。
「あれ、これって、タイムカプセルに埋めた・・・」

庭に埋めた未来への手紙が、今年でちょうど
15年でした。
「そか、確かに・・・もうすっかり忘れてたわ」
美咲は泥に汚れた手紙をビニールから取り出し、
開きました。
「懐かしいわ。え、私が・・・そうだったんだ」
美咲はしばらくじっと手紙を見たまま動きません。
考え込んでいたその先から、「ふんだ、こんなもの」
いうなり、手紙をくるくるっと丸めると、
ポイと捨てたのです。
それを見ていたコタロウは、丸められた手紙を
くわえると、
寂しそうに公園を去っていきました。
「こたろう~何処行くの~~」
(そうだわ、くるみ割り人形をお母さんに
 教えてもらって、あれが最初に覚えた曲
 だったわ。あの頃は・・・。でも、もう私なんか)

「美咲さん~仕事に入ってな」
遠くから監督の声が。
午後の仕事もコタロウのこと、夢のことで
仕事も相変わらず力が入らない美咲です。
「ポン」と監督に叩かれた美咲は、察して
くれた監督の気持ちに心を立てました。
天気予報のとおりに夕方からは雨になり、
現場も早仕舞い、
(コタロウ帰っていいるかしら・・・)
はやる気持ちを抑えながら帰宅しました。

「母さん、コタロウいる?」
「え、コタロウは昼前まで庭にいたけど?」
「母さん、コタロウ昼に公園に来たのよ。
 どうしたんだろう。私、さがしてくる」
夕闇の迫る中を賢明に探すも、コタロウは
見つかりません。
とぼとぼ帰る美咲は、昼の自分のしたことに、
自分を攻めるのでした。
(何であんな事を、コタロウの気持ちも・・・)

「母さん、私、明日警察署に行ってくる」
「そうね、コタロウの写真を持っていく
 といいわ」
「うん、わかった。でもどうしたのかなあ、
 コタロウ・・・」
その夜は雨風が強くなり心配でまんじりともせず
一夜を明かした美咲です。

翌日は雨もやみ春風が心地良い日和となり
ました。
窓から夜明けの明かりが差し込むと、
パット布団を蹴り上げた美咲は、急いで玄関に
駆けます。
(コタロウが帰っているかも!帰っていて・・・)
「あれ、どうしたの?。おかしいな・・・」
いつもなら簡単に開くドアが開きません。
ううう、あいた!10センチほど空いたそこから
なにか見えます。「あれ、何・・・」

思い切りドアを開けたその場所には、
「あ!!コタロウ。コタロウどうしたの。
 母さん」
声にならない悲痛な美咲の叫び声が、早朝の
庭を揺さぶります。
止めどもなく流れる涙が、コタロウの体を
包んでいきました。
ドアの前には、雨泥で汚れたコタロウが
横たわっていたのです。
コタロウの前足がドアに引っかかり、
中に入ろうとした必死な気持ちを現していました。
美咲がコタロウを抱き上げたその時、
庭の陽光桜の最後のひとひらが、
コタロウの体に舞い降りました。


  おわり。


こんな感じに今回は気分転換の意味合いも込めて、
童話を公開しました。
同じ内容で作風を三作にまとめ上げてみました。
あなたはどの作風が良かったでしょうか。
基本的に文章を書くことが好きなものですから、
色々なことを書いています。
が、エッセイや長編小説などは全く書けません。
というより、書く気がしないのは、書く力がない
からかもしれません。
たまにこんな感じに童話や短編小説などを創作する
のも、楽しいものです。
また、いつの日にか機会がありましたら、物語を
書きたいと思っています。

ちなみに昨日工事現場を通りましたら、

男性のガードマンでした。

ガードウーマンはやめたのかな?

新しい人生を見つけたのかもしれませんね・・・。